イティハーサ/水樹和佳子

イティハーサ (1) イティハーサ (1)
水樹 和佳子 (2000/05)
早川書房

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 もし、あなたがSF好きを自認していて、この本を読んでいないなら、ヘソ噛んで死んでしまえ! というくらい、ここ10年近くの日本SFでは1つ飛び抜けた作品だ。今すぐ、揃えて読め!

 物語は、太古の日本から始まる。2つの神、亞神と威神が存在する土地で、離ればなれになった鷹野ととおこの2人を中心に、神々の戦いに巻き込まれ、やがて神の仕掛けた壮大なプロジェクトの核心に近づいていく姿を描く。
 視点は少女漫画で、鷹野ととおこ(よおこ)が「もう一度会いたい!」という気持ちが原動力のすべてだが、彼らが動く舞台はSFである。日本のSFには、神との戦いをテーマにしたものが多く、これもその系統に入るだろう。

 SFとして読めば、『百億の昼と千億の夜』と対比すると非常に面白い。最後に宇宙が向かうのは静寂か、喧噪なのか? 宇宙に発生した生命は、排除される存在なのか、それとも意味があるのか?
 そういう根元的な問いは、ふだん日常生活の奥に隠されているものだが、『イティハーサ』でもちょうど同じ構造があり、その辺に見慣れたものから真実が見えてくる興奮がある。
 とにかく、これを読まずにSF好きとは絶対に言って欲しくない作品だ。

ライトニング・ブリゲイド/永福一成

ライトニング・ブリゲイド (下) ライトニング・ブリゲイド (下)
永福 一成 (2001/08)
河出書房新社

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 オンラインゲームを楽しむ少年が、ゲームの中で本当に闘うことになり、さらにそのゲームの世界は現実へと侵食を始める…… というSF。ゲームと現実の錯綜というのは、よく使われている手ではあるが、うまく描けていることと、漫画で先駆的というと、やはりコレだろう。
 案外知らない人が多いので、隠れた名作でもある。

 少年が戦いに身を投じ、成長していく姿、友人との軋轢など、成長ものとしてのおもしろさ、ファンタジーやSFの荒唐無稽さを楽しめる上に、SFとしてのストーリー性・構成の完成度も高く、男性には文句なしお勧めできる。初めて読んだときは、随分おもしろい漫画家がいるものだと思った。

 残念なのは、その後、竹熊健太郎原作で書かれた『チャイルド★プラネット』が永福一成のいいところをすべて食い尽くすような駄作だったこと。以降、メジャー誌で見かけないのが、心底残念である。
 だが、『ライトニング・ブリゲイド』のおもしろさには違いがない。読んでいなければ幸いと思うべきだ。まだ楽しめるのだから。

5.ドラゴンボール ベジータ

ドラゴンボール―完全版 (16) ドラゴンボール―完全版 (16)
鳥山 明 (2003/07/04)
集英社

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<あらすじ>
 地球を征服しにやってきたけど、気づくと凶器な肉体をした女科学者と家庭を持っていた、という不思議な宇宙人。あ、なんか違う? ドラゴンボールのあらすじを知らない人など、いないだろうから割愛。

<ベジータのツンデレステイタス>
 この人を挙げたくなくて、挙げたくなくて。
 私にとっては、ツンデレなどという記号では表しきれないほどツッコミどころ満載のキャラだ。極悪人であり、ケダモノであり、小悪党的でもあり、チビでもあり、その上愛妻家という、いろいろな要素が入りすぎて、とてもツンデレなんて言葉だけでは…… いやいやいや。

 しかし、まごうことなくツンデレである。
 彼のツンデレ具合について語りはじめると、軽く2Gくらい行ってしまうので、ポイントを押さえるが、ツンの部分は「なんとなく居候して、なんとなくそのうちの娘とやっちゃっただけで、愛情? ナニソレ食えるの?」という、カケラも人間味を感じない展開(反面、男としてはなんだかありがちな選択だが)の上、一緒に生活しはじめてからも、あっさりと地球人を大量虐殺してしまう鬼畜っぷりである。
 そこまでしても主人公には敵わないのだから、気の毒過ぎて涙が出てくる。セル編などは、ハンカチなしには読めない。芸術家然としてテレビに出ている○太郎を見たときでも、ここまで心は痛まない。

 そんな彼が、主人公に対し「オレの女に手を出すな」(超意訳)と怒るのである。いつの間に、そんな人間的な感情を! ウォーズマンだってビックリだ!
 愛情関係があるなどと、まったく信じずに読んでいただけに41巻までの歴史は長い。「あり得ない!」「嘘!」「なんだってー!」キバヤシほか、ありとあらゆる効果音が乱れ飛ぶね。そして吉村作治ばりに注意深く既刊を発掘すると、どうも彼のなかで何かが芽生えているような、芽生えていないような、そんな兆しが感じられるのだ。
 まさにツンデレとは究極のチラリズムと見つけたり。
 彼は惑星ベジータの王にはなれなかったが、今のところ、キング・オブ・ツンデレ、ツンデレ界に君臨するトップアスリートであることは間違いないと思う。

<その他属性>
・残虐非道
・素直じゃないようで、わりと素直
・目つきが悪い
・チビ
・永遠のナンバー2

theme : 週刊少年ジャンプ全般
genre : アニメ・コミック

リアル/井上雄彦

リアル (5) リアル (5)
井上 雄彦 (2005/11/18)
集英社

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 とにかくメインキャラが汚い顔で驚いた!
 次に、タイトル通り、いろいろなところがリアルで驚いた! これは車椅子バスケについてもそうなんだが、やっぱり事故で同乗の女性を車椅子にしてしまった野宮のキャラがリアル。
 こういっては何だが、車椅子でバスケをする人、ということで、ある種のドラマ性が発揮されてしまう。TVドラマの感動ものだと、それだけで泣けてしまうような効果だ。むろん、その部分も面白い。
 だが、このなんでもないキャラのはずの野宮に注目したい。顔もインパクトあるけど。

 こういうやつっているよな、と思う。誰の周囲にも1人くらいは、いそうだ。真面目に学校に行っていなければ、なお遭遇しそうだ。いいところもあるけれど、全体的にはクズで、ダメで。本人もそれをわかっていて、変わろうと思うが、変わるための方法がわからない。長い助走。しかも、常に走ってるとも限らない助走。
 そんなつまらないはずの人間を、魅力的に描いている。その観察力・表現力こそが、井上雄彦の本領だと思う。奇をてらわないおもしろさだ。

 他人と同じ人なんて1人もいないとキレイごとでいうのは簡単だが、それを実際に示してみせることは難しい。特別な人間なんて、少ないからだ。まあ、だからこそ、特別なんだが。
 若い世代は吸収率が高い。10代にこそ読んで、コマとコマの奥にある世界を読み取ってもらいたい漫画だ。

岸辺の唄シリーズ/今市子

岸辺の唄 岸辺の唄
今 市子 (2002/05/24)
集英社

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 中華風、ときおりオアシスなファンタジー。
 ファンタジーとしては、多分ちゃんと読むとツッコミどころは多いと思われるが、重要な「世界観」がきちんと出ているのがいい。大枠や設定をちゃんと押さえた上で、本質的な人間ドラマのみ読者と共有できるものを持ってきている。
 この辺は今市子の得意とするところで、本当に上手い。

 鬼人という設定も、かなり上手く使っていると思う。なんとなくいそうな感じがする、という妖怪風の曖昧な雰囲気がいいのだ。本格的な妖怪もいるけど(笑)。
 この辺の、「理屈では通用しない、ちょっとアレな人たち」を描かせたら、今市子の右に出る者はいないと思う。現実にいそうなところがポイント。

 メインキャラクターたちのドラマもゆっくりと進行している。次がどうしても気になってしまう。するめのような味わいのあるシリーズだ。

ヘウレーカ/岩明均

ヘウレーカ ヘウレーカ
岩明 均 (2002/12/19)
白泉社

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 古代ローマ時代のシラクサ(現在のシチリア島)を舞台に、アルキメデスの弟子であるダミッポスとローマ人でシラクサに生まれたクラウディアを中心に、市民の視点から戦争を描く。
 なんて、硬い口上はどうでもよくて、これは悲恋ということでイチオシ!

 シラクサを愛するクラウディアは同胞ローマとシラクサが戦争になったことで、これまでの生活を奪われそうになる。ダミッポスは、彼女は助けようとするのだが……。
 この作品の素晴らしいところは1つに、古代のシチリアやポエニ戦争の描写がイキイキして、見てきたように描かれていることだ。まさに、岩明均、見てきたように嘘を描き
 もう1つ、最後の最後で心を捕まれたのが、助けたい、守りたいと願う命のはかなさ。
 あれほど鮮やかで、ついさっきまで存在していたものが、大きな流れの前に一瞬で奪われる残酷さ。「なぜ…」「どうして」と読者まで呟かずにはいられない、諦められない気持ち。
 これが、戦争なのだ、と思い知らされる。

 第一話に出てくるハンニバル(レクターではない)の顔の怖さも、スゴイよ。
 岩明均の一連のローマものを持って、海外漫画市場に地中海を巻き込んで欲しいものである。

オートフォーカス/六本木綾

オート・フォーカス 5 (5) オート・フォーカス 5 (5)
六本木 綾 (2004/02/05)
白泉社

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 かつで少女漫画といえば、特有の「せつなさ」があった。実際に触れたら消えてしまうような、思春期の「せつなさ」。最近は、ストレートに「好き好き!愛してる!」という表現が目立つように思うが、むろんそっちも大好きだが、レトロな少女漫画の良さを残している少女漫画家が、六本木綾だ。

 なかでも「オートフォーカス」は、せつなさ1番恋愛2番。典型的な三角関係ものだが、それがイイ!
 主人公の幼なじみで、地味だが危険な性格、番犬のような学と、良心の再婚によって義弟になった陸。この2人が対照的で非常に良い。
 まあ、筋はよくあるものなのだが、この作品の良さは、「せつなさ」にある。

 誰か1人を選ぶということが意味する子どもからの卒業。なのに、一緒の心を通わせた記憶だけは、温かく、主人公を迷わせる。1人ぼっちのときに繋いだ手の存在感は、宇宙に自分たちしかいないのではないかと思わせるほど、しっかりとしていた。
 なのに、大人になると、自分たちが子どもでは居られないことを自覚させられる。
 繋いだ手を放さなければ、記憶すら色あせる。
 そのことを先に気づいたのは、学の方だった。

 そう、私は報われない男好き。
 でも、陸もかっこいいし、こういうタイプが世界を拡げるんだと思うな。

 懐かしい学生時代を思い出したい貴女に(笑)。

4.トラブル・ドッグ 長瀬アキラ

トラブル・ドッグ 9 (9) トラブル・ドッグ 9 (9)
六本木 綾 (2000/06)
白泉社

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<あらすじ>
 美人だが気の強い椎名は、その性格ゆえにサッカー部の一部に狙われていた。自分で解決したい椎名だったが、学内に「トラブル・ドッグ」と呼ばれる解決屋がいることを知る。

<長瀬アキラのツンデレステイタス>
 長瀬アキラは主人公椎名が心を寄せるトラブル・ドッグのリーダー。ふだんはぱっとしない外見をしているが、前髪&眼鏡を外すと…という少女漫画様式美の美形。愛想が悪くて、他人の心を開かない、寡黙な男……。
 彼の良さは「ものすごいやせ我慢男」だということ。報酬さえ払えば、犯罪にならない限り、トラブルを引き受けるというトラブル・ドッグは、それを利用して椎名に執着する男に都合のいいセッティングをしなきゃいけなかったりするのだが、断ればいいのに、断らない。
「仕事だろ」
 学生の本分は、勉強だー! 仕事じゃねー! とやせ我慢しつつ、仕事が終わり、“長瀬アキラ”に戻ると速攻でかけつける。泣ける、このバカ。
 融通の利かないツンデレです。

<その他属性>
・眼鏡
・二重人格
・口が悪い
・素直じゃない

ナイルのほとりの物語/長岡良子

ナイルのほとりの物語 (11) ナイルのほとりの物語 (11)
長岡 良子 (1998/07)
秋田書店

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 古代浪漫を描かせれば、希代の名手・長岡良子のエジプトシリーズである。
 基本読み切りで、ときどき1冊まるごと1つの作品になっている。最終巻が少し宗教っぽくなったのだけが残念だが、古代への幻想をかき立てられることは間違いない。エジプトものといえば、私は、これと「ファラオの墓」を推す。
 一番好きな話と人を紹介しよう。

 一番好きな話は「メンネフェルからの手紙」である。
 ハトシェプスト女王とトトメス3世の時代(紀元前15世紀頃)。トトメス3世はハトシェプスト女王の実子ではなく、側室の子どもなのだが、その側室であった母の秘められた過去の物語だ。
 実母シシィを殺したとしてハトシェプスト女王を恨むトトメス3世だったが、そこへ女王の側近で、彼も知っている男から手紙が届く。その手紙には母の死にまつわる真実が書かれていた。
 シシィの死体をかき抱く彼の最後の言葉が堪らない。大きな歴史の流れに巻き込まれた幼い恋人同士の静かな悲しみが聞こえてくるような作品だ。
 今、思い出しても泣け(ry

 このシリーズのなかには「黄金の地平」という作品があり、「世界ふしぎ発見!」でも何度か紹介されている、抹殺された王アメンホテプ4世の物語に触れている。理想の国造りをしようとした彼は、信頼できる側近と力を合わせようとするが、心の病が王をむしばみ… という展開。その側近の1人ホレムヘブ(将軍、のちにファラオ)が、理想を打ち砕かれたときに叫ぶ言葉が好きだ。
 軍人だからこそ、現実がいかに汚いものかを知っている彼は、それゆえに誰よりも理想を求めていた。アメンホテプ4世の理想を実現したかった。だが、現実は理想論で行くほど甘くない。彼は苦渋の決断をし、自分が実権を握る。王と国民を守るために。

 このシリーズには「希求」という言葉がぴったりくる。太古から続く歴史のなかで、人間はなにに餓え、なにを求めているのか。
 たまらなく人間の営みが愛おしくなってくる。

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  • Author:明
  • 年期の入ったヲタ。漫画中毒。立てばたぬぞう座ればチョコボ、歩く姿はアラレちゃん。
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